「何が起こっているか、知って欲しい」

「何が起こっているか、知って欲しい」

知り合いのお友達の赤ちゃんがこの園で亡くなりました、と教え子からメールが来たのです。ホームページに怒りさえ感じます、と書いてありました。

現在休演中と書かれたそのホームページには可愛らしい子どものイラスト付きで、良さそうな(よほどの保育士を揃えてもとても無理な)ことがたくさん書かれていました。

事故(事件)の概要を、まだわかっている範囲ですが、報道で読んでいた私は、料金値下げの部分を見て驚きました。一体どうしたら補助金の支給条件が監査されるはずの認可外保育でこんな値段が可能なのか。それとも、補助金とは無関係の、異常な自転車操業だったのか。

国の保育施策の底辺のところで、こういうことが起こっている、その危険性が人材不足でますます高まっている、それを知っているからこそ辛いのです。防げたのではないか、様々な思いが交錯します。

「○○保育園のホームページへようこそ!」

当園では常に保育内容の充実と向上心に心がけ、経験豊富な教育の専門家が作成したカリキュラムに基づき独自の教育を行っています。特に情操教育には力を注ぎ、こども音楽教室や知育あそび教室等を通して、脳の活性化はもちろん「やさしさ」や「思いやり」の心をはぐくむよう指導しています。

また、認可外保育園では珍しい日曜・祝祭日の保育もご相談に応じ、ご利用しやすい環境を整えています。

勤務時間が夜までで昼間だけの学童に預けられない、急な用事で夜まで預けたい…

そのようなお困りごとがありましたら、ぜひご連絡ください。急な預かり・深夜の受け入れ大歓迎です!

夜間預かり料金・対応時間改正のお知らせ

預かり時間を伸ばし、フレックスの料金を下げてご利用しやすくなりました!

一時預かり:500円→200円/1H フレックス(チケット)50H 7000円(1名:140円/1H)

急な用事で子ども預けるところがない… そのようなお困りごとがありましたら、ぜひ、ご連絡ください。料金を下げてご利用しやすくなりました!

(以上、ホームページから)

国が閣議決定で期限を定めた待機児童解消のために、認可外の保育施設に認可と同様の補助を出そうとした時に、質を心配する声はすでに上がっていました。認可外や小規模での死亡事故率が高いにも拘らず、監査方法も罰則規定も明確に示されなかった。劣悪な認可外施設は存在していることは報道でもわかっていた。それでも、厚労省はその反対を押し切ったのです。

「社会で子育て」を主張してきた「保育の専門家」が今年になって、少子化と園の作り過ぎで定員割れを起こし経営が危ぶまれる保育施設に関する報道で、インタビューに答えて言っていました。

保育園の数を増やし待機児童がなくなったので「一定の成果はあった」。「家庭で子どもを育てることに不安や疲れを感じる人たちにも、保育が必要になってきている」、「保育園の柔軟な活用が求められている」と、更なる規制緩和を提唱したのです。簡単に言えば、働いてなければ入れないという垣根を取り払え、ということ。定員割れしないように保育業界を守れ、ということなのでしょう。(著書「ママがいい!」にも書きましたが、子どもたちの立場に立ちつつ、保育業界を守る方法は規制緩和以外にもあります。)

学者の言う「一定の成果」の裏には、無資格でもいい、パートで繋いでもいい、十一時間保育を標準とする、そして、監視が行き届いていないにも関わらず認可外に補助を出す、など、子どもたちの安全と安心を二の次にした様々な規制緩和がありました。そして、この学者の言う、これからすべき「柔軟な活用」にはすでに、1時間140円という料金で夜間も預かる、(ホームページを見る限り、補助金を受けられるはずがない、報道で知る限り規則を守っていなかった仕組みで)生き残りをかけた危ない自転車操業ともいえる保育をする園が含まれている。

イラスト付きでホームページを作った「保育内容の充実と向上心に心がけ、経験豊富な教育の専門家が作成したカリキュラムに基づき独自の教育を行っている」園の経営者は、その料金の下げ方を見れば、「充実と向上心に心がけ」ている人には思えません。政府の子ども・子育て支援新制度を「ビジネスチャンス」と宣伝するビジネスコンサルタントやフランチャイズ型の株式会社の勧誘で、マネーゲームのように、または気楽に、保育園を作った人かもしれません。

少子化の実態などまったく知らずに、起業を薦められ、いつの間にか追い詰められた「保育施策の犠牲者」かもしれません。でも、それは一人の子どもの命に対して、まったく何の言い訳にもなりません。

数年前、ネット上にこんな宣伝がありました。政府の勧める新たな補助事業に目をつけ、マニュアルを廉価で売ることだけが目的だったのでしょうか。

「保育園開業・集客完全マニュアル」

起業したい、独立したいというあなたの夢をかなえます。今ビッグチャンス到来の保育園開業マニュアルです。コンサルティング会社に依頼する百分の一の価格で開業ノウハウ全てが手にできます。

*独立・起業を考えているが、何から、どう始めたらよいかわからない。

*自己資金がなくてもできる起業を探したい。

*自分ひとりで始めるのは不安がいっぱいだ。

起業をしたいと思った時がチャンスです。ネットビジネスも儲かるのでしょうが、やはり安定した収入は確保したいものです。

(以上、引用)

これが政府の言う「日本再興戦略」(平成二十五年六月十四日閣議決定)、保育分野は、「制度の設計次第で巨大な新市場として成長の原動力になり得る分野」の実態です。

保育園は、何から、どう始めたらよいかわからない、自己資金がなくてもできる起業を探している、不安がいっぱいな人が始めるものではない。国が言うように、「制度の設計次第で巨大な新市場として成長の原動力になり得る分野」ではないのです。

そこで起こった出来事が、子どもの命に関わるだけでなく、見えないところで、一生の心の傷、PTSDとして記憶に残る、または後天的発達障害として表れる可能性を持っている、一家の人生やその先にある学校教育の在り方をも左右する分野なのです。仕組みの形作りには細心の注意を払って、心を込めなければいけない。安易なビジネスチャンスにしてはいけない分野だったのです。

「ママがいい!」、ぜひ、ぜひ、読んでみてください。何が起こっているか、知って欲しいのです。よろしくお願いいたします。

 

 

(写真)「ママがいい!」、紀伊国屋新宿本店に並べてくれました。右上に長くお付き合いのあった佐々木正美さんの本が見えます。ある講演会でご一緒し、楽屋で長時間、楽しく、険しく、様々に話し合ったことを懐かしく思い出します。先生が、最後の力を振り絞っていた頃でした。

 

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