園長からの手紙:厚労省と政治家は心の耳を傾けてほしい。

松居和様

 横浜市にある小学校にて先生の講演を聞かせていただきました。たぶん年寄りは2名しかいませんでしたね。その一人です。

 お久しぶりです・・と言っても先生の記憶にはないものと思いますが、4年前に先生に講演を申し込んだ保育園の園長をしているものです。

 私の保育園は横浜保育室です。園庭もなく、ビルの一階にある保育園ですので、松居先生や長田先生に言わせると、なんていうところだと思われるかもしれません。私はK市で32年間保育士をしていました。30年の流れの中で、子どもが変わった、親が変わった、社会も変わった、休みでも簡単に預けてしまう、自分の生活には立ち入らないでほしいと、都合の悪いことはすぐに市長への手紙が行く時代。

 ゆったりと子育てを楽しむ気持ちが薄らいでいるこの時代、母子関係の希薄さに危機感を覚えました。

 自分の子育てをしながらいろいろな子ども達を見てきました。いじめ、不登校、リストカット、小中学生のいろんな問題を見ればなぜ子ども達が気持ちよく育たないのだろうと、疑問を持つ日々。先生は公立園の園長をよく御存じですが、私のいた市では、園長会で園長たちが滾々と教え込まれてきたマニュアルを、子どもにとってどうかと考える前に保育士にただ受け入れろ、余計なことは言うなという体制をとる方が多かったと思います。

 子育ての大事なことを伝えられなくなっていることに、これではだめだ、もっと親のそばに立ち、一緒に子育てをしながら子どもの声を代弁していかなくては、母子関係が成り立たない、そう思い本当の子育て支援をしたく早期退職し、自分で保育園を作ったのです。私にはこれが精いっぱいの保育園でした。

 見学に来る保護者の方には、この保育園は、いいのいいのと何でもやってあげる保育園ではなく、本当に大事なことを伝えます。時には大変だと思うこともあるかもしれないけれど、この乳児期が一番大切なのだと、丁寧にお話をしています。ここがいいと言って多々ある保育園の中から選んでくださる方も多いです。その中のおひとりが今回の小学校での講演会を企画した一人です。

 この地域には3つの小学校があります。現状として学級崩壊状態のところもあったり、いじめが子供だけでなく保護者同士であったり、その親の偏見が子供のいじめを助長させているところもあるようです。具体的には保育園出身か幼稚園出身かで差別が生まれたり、親の最終学歴を聞いてくる方もいて、それでグループができるなど。これが子供に影響しないわけがありません。

 その状態に心を傷めていた方が先生の講演を聞き、ぜひとも自分の小学校へ呼んで先生のお話を聞かせたいと、発案されたのです。学校始まって以来の保護者会主催の講演会、これを実現させるまでにかなり頑張っていました。私も実現できたことを本当に嬉しく思っています。

 なぜこんな手紙を書いているかと言うと、今の保育情勢に大変危機感を覚え、それを誰にも言えない苦しさから、ぜひ先生に聞いてもらいたいと思ったからです。

 認可保育園もたくさんできました。

 方針は確かに立派なことが書いてあり、素敵ですが、それぞれの企業で、いろいろな教育をうたっております。その教育が問題なのです。

 先日当園で昨年の卒園児と在園児の交流会があり、認可保育園や幼稚園の情報などを教えてもらいました。その中の一人の話を聞いて、私は怒りがこみ上げてきました。

 その保育園ではなんとかと言う横文字の教育、お勉強をさせているということです。3歳児の子どもにプリントをさせる。4月2日生まれのその子は、クラスでも一番小さいでしょう。

 うちの子は何だかついていけてないみたいで、プリントをこんなにいっぱい持って帰ってくるんですと。家でやりなさいと宿題です。でも、なかなかゆっくりも見てやれないし・・と。

 3歳児で「できない」「やらない」「できなくてもいいや」と挫折感を味あわせるのか、無気力、無関心を育てているのか。3歳でそんなことを味あわせてほしくない。やらせるのであれば、分からない子をすくい上げてほしい。小さな子に教育を行うのであれば、その責任は大きい。お勉強の前にもっともっとたくさん満足感、達成感を味あわせてほしいのに。

 認可は役所で申込み、保護者は選べないのです。どんなことをしていても、子どもはいっぱいに埋まる。保育の質も反省も何も関係なく。このような子ども達がどんどん作られているとしたら、今後この国はどうなるのだろうか。乳幼児のうちから挫折感を味わい無気力、無感心な子ども達が小学校へ送られる。上手く育つはずはありません。

 保育園を開園してから5年目を迎えた私。

 地域を作ることから始めなくてはと思いながらどこから始めようか、誰に声をかけたらいいか様子見の2年間。いろいろな場で私の意見を言っているうちに地域プラザの方が、私に声をかけてくださり、地区の子育てを考える会に呼んでくれました。これまで老人に対しての対策に取り組んでいたケアプラザでしたが一段落したのでこれから子育てに力を入れていきたいと、私と、保護司の方と話し合いを持ち、この地で何ができるのか草案を作りました。

 まず、小学生の登校下校時間帯に年寄りたちに町に出てもらおう。最初から難しいことを始めるのではなく、声掛けからと。常に大人の目があることを子供たちに知らせたい。井戸端会議があちこちであるようなところがいいよねと。少しずつですが何かが動き始めたようで、本当に嬉しいです。

 そんな活動をしながらも、子育て新システムとやらが本当に親子にとって良い物なのか。小さいうちは自分で見たいとか、短時間の仕事でいいから少しでも子どもといたいという親心が潰されてしまうのではないか。保育園に入るために育休も取らない、削って0才児から入れてしまう。今まさにそれが始まっています。配偶者控除も取り上げられ、ますます拍車がかかるのではないか。不安、焦り、怒りさえ感じます。でも、これだけのことを話しあえる園長はなかなかいません。

 他園のことをなんだかんだ言うことはできません。

 誰にも言えないけれど、子どもの育ちを考えると、辛くなります。

 横浜保育室、29年には認可にならなくてはなりませんが、空いている土地がなければどうにもなりません。やらなければならないことがいっぱいあるはずなのにこのまま潰されていくかもと言う情けなさと、あまりにひどい現状からもういいか・・と投げ出したくなる気持ちと。

 お金があれば4月に一度に5個も10個も認可を作り上げていく大企業。中身が伴えばいけれど・・。

 自分はやるぞ、と思って立ち上げた保育園ですが、本当にやりたくても小さなところにはその余裕がない。情けないです。

 保護者が、先生、私たちが署名をすれば役所は認可を認めてくれますか?と言いました。

うちの園は今のところでも障害者トイレを作れば認可にはできます。でも園庭がありません。別の場所で作ろうにも土地がありません。広い敷地の園で育つ子は幸せ、でも都会の真ん中で生きていかなければならない子供もいる。その子どもにどれだけのことがしてやれるのか、それも大きな課題なのです。

 なるようにしかならないけれど、最後まで頑張るつもりです。

 先生、お話させていただきちょっとすっきりしました。

 長田先生の本は保護者用貸出しの本の中にしっかりと入れてあります。

 これからも先生のご活躍を遠くから応援しております。長々連ねてしまいましたが読んでいただいてありがとうございました。

 無認可の枠組みに入れられてしまっている横浜保育室ですがこんなところもあるんです。

 保育園ものぞいてみてください。

http://www.yakou-tsubomi-hoikuen.com/

 園長ブログでは子育てについてもいろいろ発信しております。

 大事な子ども、しっかりと育ってほしいと願うばかりです。

私の返信:

ありがとうございます。
とても、よくわかります。
本当に、多面的な問題が一気に出て来ました。その多くが、以前から保育界に内在していた問題には違いないのですが、いくつかの常識や習慣と子どもたちの笑顔の中で、長い間何とか治まっていたのです。それが、いま収拾がつかない形で噴出して来た感じです。
内閣が、根本的なところで視点を修正してくれないと本当に恐いですね。

松居

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

image s-3.jpegのサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像

 私の師匠たちの中に何人か、既存の保育のやり方に疑問を持ち、認可外から自分で保育所を立ち上げた方がいる。始まりが30年前だと良い流れにのって、いまでは三つの認可保育園を運営し、地域で「鬼と呼ばれている」名物園長もいる。1人の保育士が、これではいけない、と子どもたちのために立ち上がることに変わりはないのだが、いまの時代、子どもを優先に考える園長・設置者は、保育を成長産業、雇用労働施策の一部と考える政府や行政の方針に逆行している無力感、虚しさを感じることになる。もう一度、こういう保育者の心の叫びに政府は耳を傾けて欲しい。

 園長が指摘する保育の中に教育を取り込むことの難しさ。子どもたち、親たちをしっかり見極める力が保育士にないと、その子に合わない無理な「教育」が、大切にしなければいけない芽をあまりにも早い時期に摘み取ることになりかねない。そんな気持ちでひとり1人の子どもを見つめる保育士たちの視線が、目的だけの保育で曇り始めている時に、「保育と教育の両面を併せ持ち」などと暢気な机上の論理を冒頭に書く「子ども・子育て支援新制度」。政府も学者も何もわかってはいない。