安野先生/言葉のない絵本

息子の幼稚園の先生が、朝、「和さん、安野光雅さんがこんなこと書いていたわよ」と教えてくれました。月刊絵本に一緒について来る「絵本の楽しみ」という小冊子でした。

 安野先生が絵本をつくることになった頃の経緯が書いてあって、
 (前略)「明星(学園)には、校門のそばに『自分たちの巣』を作っている子どもたちがいました。もう何日もかかっている様子で、それはバラックとも言えないほどの変な小屋でしたが、自分たちにとっては御殿のような砦だったらしいのです。
 (中略)砦を築いていたのは、和くんという活発な子でした。お父さんは松居直さん(『こどものとも』初代編集長)でした。(中略)松居さんから『絵本を描いてみませんか』と言われたのです。『わたしは、お話がないから」と言うと、『お話しはなくてもいい』と言われたのです。これは驚天動地です。それで『ふしぎなえ』という文字のない絵本ができたのですから、人生とはふしぎなものです。松居さんにも恩義を感じますが、和くんにも感じないわけにはいきません。」
 砦を築いていた、子どものころの私にまでこう言ってくれるのが安野先生です。小学生の時の先生には、いまだに見守られている気がします。
 文章は続きます。
 「わたしたちは言葉を通じてわかりあっている世界に生きていたのです。でも、たとえば、ゴッホの絵にも、ふつうの山や川の風景にも、言葉による説明はありません。
 このことを忘れて、言葉がなくても理解できる世界があること。むしろ、そのほうが多いことを考えてみなければなりません。」
 講演や本で、0、1、2歳児との会話が、言葉を介さないコミュニケーションの世界に人間を導く、それが感性を育て、自分自身をより深く体験できる、と私は言ってきました。
 赤ん坊と話していれば、歳をとってからお地蔵さんや盆栽とさえ会話ができる、と書いてきました。だから、安野先生の言葉が嬉しいのです。先生は、授業を生徒と一緒に喜んでいる先生でした。
 「すごいなー、すごいなー」という言葉が、心からの言葉だということが、子どもたちにはビンビン届きました。
 先生は続けます。
 「いろいろ説明して結婚するのが見合い結婚です。はじめはなにもわからないのに、好きになって結婚するのが、恋愛結婚です。どちらがいいか考えるのは、本人が決めることですが、このごろは『感性』が鈍い人が多いらしく、説明を聴きたがる傾向があるように思います。」
 だから少子化なんですね、と思います。信頼関係が薄いですから、当然、見合い結婚は少ないですし、説明を求めていたら恋愛結婚にもなかなか進まない。理屈ではない、言葉では説明のつかないのが人生なんだ、という感覚がもう一度行き渡るには、海や山や川を眺めるのも良いのですが、0、1、2、3歳児あたりとみんながつきあうのが一番いいのです。
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