前回、キャリアと子育て/政権公約と保育現場の思い、という文章を書いたのですが、これはその付録です。
「結婚・出産が女性のキャリア形成に不利にならない社会を創出」という新聞に載っていた日本未来の党の公約から書き始めたのですが、一応、一段落書き終わってからも考え続けました。
「男性のキャリア形成に不利になること」それはなんだろう、と考えていて、思い出したのが徴兵制度です。法律でこういうことをされると男性はいきなり不利です。キャリアどころではない、生死に関わってくる問題です。
私がアメリカに渡ったころ、ベトナム戦争が終わって数年というころ、ギタリストのロビン・フォード(Robben Ford)の家で、人生について話していたのです。私の一番最初のアルバムに参加してもらっていた時で、たぶん打ち合わせのあとワインを飲みながら、夕暮れ時だったと思います。
ロビンは、終戦間近だったけど、徴兵番号がかなり近づいてきてヒヤヒヤしたんだ、と言いました。
その頃のアメリカの徴兵制度は、ある年齢層が番号を渡され、順番が近づいて来ると覚悟を決めなければならない、という仕組みでした。彼の盟友でもあるピアノのラッセル・フェランテもかなり危なかった、と言うのです。私が人生で最初に徴兵制度を身近に感じた瞬間でした。
穏やかで哲学的なロビンは、チベット仏教の信者で家に小さな祭壇がありました。ブルース系のギタリスですが、フュージョンジャズの草分けでもあり、マイルス・デイビスのバンドにも居たことがあります。一か八かの個性的な巨大なソロをライブで弾くことがあり、いまでも根強いファンを世界中に持っています。
当時の私にとっては音楽上のソウルメイトのような存在でした。
「徴兵されても戦場に行かなくても住むように、一流のミュージシャンは軍楽隊に志願したんだ」とロビンは笑いながら言いました。
当時のロサンゼルスの軍楽隊にはハービー・メイスンやトム・スコット、マイク・ベアードも居たんだよ、と教えてくれました。軍楽隊の隊長は一流のミュージシャンに囲まれて鼻高々だったそうです。
徴兵、これほど男たちのキャリア形成にとって不利なことはないかもしれません。音楽家としてキャリアが一番伸びる時に軍楽隊で行進曲や国歌を演奏し続けるのはあまり喜ばしいことではないでしょうし、戦場に駆り出され、負傷したり、戦死したら、キャリア形成どころではありません。
(http://sakthi.luci.jp/pg80.html このページの「Farther On」という私の一枚目のアルバムの曲の中で、ロビンのソロを聴くことができます。スケールの大きい背後に沈黙を感じさせる、スピリチュアルで哲学的なソロです。私の尺八も一緒に、ぜひ、聴いてみて下さい。)
私の想像上の思考は、そこで、再び子どもたちのキャリア形成、で不利になることは何だろう、という方向に飛びます。幼児期の親との体験については前回書いたのでそれ以降のことを考
えてみました。
えてみました。
まず思ったのが、学校の担任や保育士、保育者の当たり外れの問題です。これが子どもたちのキャリア形成に不利になる可能性があるから、モンスターペアレンツや「担任外し」などが起こるのでしょう。でも、親たちのそういう行動は、育てる側同士の信頼関係を崩し、めぐり巡って教育や保育の質の低下につながるわけです。ますますキャリア形成に不利になるのです。
学校で同じクラスに障害児がいることを露骨に嫌がる親もいます。授業の進み具合が遅くなるというのです。その通りだと思います。でも、授業の進み具合は子どものキャリア形成には悪い影響を及ぼすかもしれませんが、クラスに障害を持った子がいることが子どもの人格形成に良い影響を及ぼすことも当然あるのです。あらゆる命が意味を持つことを知り、受け入れようとする能力は、真のリーダーを生むことにつながるかもしれない。優しさや忍耐力は、子どもが親になった時に、とても役に立つのかもしれない。いい人間になることは、ひょっとしてキャリア形成に不利になるかもしれませんが、人生にとってはとてもいい事です。キャリア形成に失敗しても幸せになれます。人間が一番確実に幸せになれる方法が、いい人間になることです。人生は自分自身を体験することでしかないのですから。(もちろんいい人間になることは、キャリア形成に有利になることもあるし、そんなキャリアであってほしいものです。)
ここまで考えると、例えば、生まれた家の貧富の差、先天的な病気を持っていること、結婚して授かった子の体質、性格、結婚相手の性格、その両親の性格、親の信じる宗教、もう不利なる可能性のある要素に関しては、上げればきりがありません。それが人生だだ、というしかありません。
女性のキャリア形成の不利になるから、と授かった幼児だけ、なぜ政府がお金をかけて預からなければならないのか。こんなことは人類がまだ一度もやったことのないことです。しかも0歳児を預かるのに税金を一人当たり月20万円から40万円かけているわけです。直接7万円母親に渡せば、キャリア形成より良いかもしれない、と思う女性は結構いると思います。
当然、私の思考はインドに飛びます。インドでは、結婚と出産と子育ては「人生の形成」(注:キャリアの形成ではありません)にほぼ不可欠なこと、と考えられています。それが良い悪いではなく、そうなのです。だからインド人のほとんどが親の決めた相手と結婚します。(ほぼカーストの範囲内で……。これはあまり良いとは私は思いません。恋愛が命取りになることがあります。ずっと以前このブログにも書きましたが、私は友人を一人カーストを跨いだ恋愛で亡くしています。)
この、結婚・出産を中心に人生を考えるやり方は、いまこの瞬間、同じ人間がやっていることなのだ、と思わないかぎり、先進国で育った人には、論理的に中々受け入れ難い仕組みです。しかし、この仕組みには、親子の信頼関係を維持しなければ結婚さえできない、という家族を維持するための足かせの役割もあるのです。
シャクティの映像を撮ったとき、ダリット(不可触民)の村で、モルゲスワリというメンバーの両親にインタビューしました。彼女の家には村では珍しく電気が来ていました。電球の光の下、とても興味深いインタビューだったので、ぜひご覧になってください。このアドレスに映像がアップしてあります。
http://www.youtube.com/watch?v=xCFYYAUjbXU&feature=youtu.be
ドキュメンタリーで使った映像の他にもこの家で一時間くらい話していたのですが、最後に「私に質問はありますか?」と両親に聴くと、「結婚しているか?」と聴くのです。している、と答えると頷いて、「子どもはいるか?」と聴くのです。いる、と答えると、とても安心したように頷き、笑ったのです。
質問はその二つだけでした。
セルバという結婚相手が決まったメンバーのインタビューからも、命をつなげてゆく仕組みが、親子の信頼関係を土台に、結婚・子育てを経て、男女の信頼関係につながってゆく流れが見えてきます。
http://www.youtube.com/watch?v=h3OpPP_JY_g&feature=youtu.be
キャリア形成に不利なことが、一家の生活という視点からは有利になる。相対性、陰陽の法則のようなものを感じます。
そして、人類は「家」という単位でものごとを考えていた時代がつい最近まで続いていた、だからそこに相対性が生じるのでしょう。私たちの遺伝子は、その単位で進化して来ました。だから気をつけなければいけない。
そういうことだと思うのです。
絆や信頼関係が人間の「生きる力」、すなわち幸福観の中心にあった。
だからこそ、「女性のキャリア形成」という言葉を使うときは、それが限定的な幸福観を持つ人のキャリア形成、または限定的な状況にある人のキャリア形成だということを同時に言わなければならない。少なくとも「働きたい女性の」とするか、「どうしても働かざるを得ない状況にある女性の」と言えば、少しはイメージがはっきりしてくると思います。
「キャリア形成における不利」と「幸福感」は別物であることを常識として社会全体が持ち続けなければ、自分自身が弱者になってハッと気づいた時はもう遅い、なんてことになってしまします。
人間は弱者という形で生まれ、弱者という形で死んでゆく。キャリアはその間の40年くらいのことでしかありません。幼児という弱者がいかに美しく幸せそうか。なぜ、そうあるべきか。彼らを眺める時、人間は、弱者であることがいかに幸せなことか、それを感じて生きてゆくのが人間の本来の姿なのだ、と気づくのです。老人になって、なお幸せを感じれば、それが人類が求める一番納得のゆく姿です。
公党が選挙公約で単純に「女性の」と言ってしまうと、そこからいつの間にか「子どもたち」がこぼれていってしまう。それが見えるから、心ある保育士が辞めてゆく。保育士になるなり手がいなくなる、そして、子どもたちが不安のなかで生きるようになってゆくのです。
シャクティの風景に出てくる登場人物たちは、いまこの瞬間を生きています。
どちらが安心感に包まれているか、絆と信頼関係に守られているか、それを考える機会を私たちは与えられています。彼らが持っていない「選択肢」があるために、私たちが不幸になっているのだとしたら、私たちは幸福になる選択肢も与えられているということなのです。
カズ・マツイ・プロジェクトの入手困難盤がタワレコ限定復刻/だそうです。びっくり。

私の心の中では名盤なので、復刻されると嬉しいです。28年前のプロジェクトです。良いものを創ったから復刻されるんだ、と人生におけるご褒美をもらった気持ちです。
1月11日、ディジュリドゥー奏者のKnob君のコンサートで久しぶりに尺八少し吹きます。場所は、スイートベージルです。