新任教諭の退職、公立校で相次ぐ

松居和チャンネル第9回「ちくちく言葉の破壊力」~それに立ち向かう「詩の力」~を、職員研修や勉強会に使います、というメッセージをいただきます。同時に、切羽詰まった訴えが届きます。主任が不適切保育に関して、「保育参観の時だけは、気をつけるように。普段はしょうがいないから」と言った、とか、「朝5分、帰りの時に5分は、気をつけて、笑顔でいてください」とか。

親に訴えられない、0歳、1歳、2歳児に対するいじめ、そこだけは、将来この国の義務教育の存続に関わる問題なのだ、と社会全体が認識してほしい。だからこそ、なるべく親に返していく。

親に返していく方が危ない、という理屈を言う人がいても、「仕組み」でやるのは不可能だ、という結論は出ているのです。成り手がいない。

保育士による「ちくちく」は、親に可愛がられている子どもには、余計に辛い、驚きの体験となる。それが密かに繰り返されることによって、いつか花開くはずの、大切な「華」が永遠に摘み取られ、いつ爆発するかわからない時限爆弾が、脳の中に埋め込まれる。そういう可能性がある。

親たちが知らない間に……、親によって。

「親たちが知らない間に……」ということが、実は、人間社会において、あってはならないこと。それが、保育という仕組みの最大の欠陥でもある。

その最前線で、必死に子どもたちを守る最後の砦が、保育士たちの「勇気と覚悟」。前回、そのことについて書きましたが、こんな情けない状況を作り、仕組みをここまで破綻させた学者たちの無知と怠慢には憤りさえ覚えます。彼らは、もう20年も前から、実習生の報告を通して、状況を知っていたはず。この問題を取り上げれば、「実習園を失う」というビジネスの論理で、親子の将来を犠牲にして、未満児保育を容認してきた。

同じような状況が、すでに小学校でも起きています。人間性に欠けた、残酷なことをする「担任」が増えている。悪い教師を解雇できない状況が、いい教師たちの心を追い詰め、「良心捨てるか、教師辞めるか」という決断を迫られる。突然の、教師たちの休職が、仕組み全体をさらに追い込む。そのスピードが早すぎて、文科省も成す術がない。20年前、保育学者たちに欠けていた「勇気と覚悟」、無知と怠慢が、しっぺ返しとなって現れている。

三歳までの脳の発達とニューロンネットワークの「選択」を考えると、その時刺さった針は、一生そこに残る可能性を秘め、人間らしく、調和して生きることを難しくする。

今、政府の無謀とも言える規制緩和によって、良くない保育士に当たるリスクはますます高まっている。

八時間の正規雇用の保育士が、「他人の子どもに対する扱いをわきまえた」人だったとしても、前後のパートや派遣、無資格の代替えが、数分でも、いじめと思える扱いをすれば、その子の一日は台無しになる。一生が台無しになるかもしれない。

政府の安易な数値目標、量的拡大によって、「保育」は、誰もコントロールできない「仕組み」にされてしまった。個々の「いい保育園」はあったとしても、絶望的な「保育士不足」と、政府の方針に沿って「保育のサービス産業化」を教える養成校が繋がっている仕組みでは、よほどの「勇気と覚悟」がないと市場原理に抗えなくなっている。

義務教育が存在する限り、就学前の日々の体験の「二極化」は、六歳で合流する。そこで、将来、国の在り方を左右する「負の反応」が起きる。それを止められていないどころか、ますます広がっていることが、母子分離中心の保育施策の失敗のすべて、と言っていい。

一体、いつまで、政府は、これを続けるのか。いつまで、学者や専門家は容認するのか。

ちくちく言葉が発せられる光景を、当事者でなくても、他の子どもたちも観ているのです。子どもたちにとって、保育室は毎日を数年過ごす「社会」そのもの。その時期「幼児にとっての社会」を整えることは、「将来のこの国の姿」を整えることなのに、いまだに、こども家庭庁の「こども未来戦略」は、「両立」という言葉を使って、母子分離を促している。

幼児期に、人間社会を信じることができなくなったら、子どもたちは、やがて、あらゆる場面で、そこに居る相手を「試そう」とする。その摩擦が、不登校やいじめという形で現れると、その連鎖に福祉や教育は対応できない。「女性の活躍支援」という政府の偽善的な掛け声によって「子育ての現場」が追い詰められ、後戻りの出来ない状況を生んでいる。

「新任教諭の退職、公立校で相次ぐ。精神的な不調、東京では理由の4割」

https://www.asahi.com/articles/ASR6N4TFKR5YUTIL00R.html

学童落ちた!仕事どうする? 追跡“学童保育クライシス”

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4794/

発達障害の子“通級利用に数か月かかる場合も”都内の4割以上 自治体アンケートからみえた“学びの壁”

https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20240126b.html

政府の進めてきた「規制緩和」や「子育て安心プラン」によって、社会にとって致命的な様々な出来事が、コントロールできなくなっています。「新人教諭の退職」、「学童保育クライシス」、「通級利用が限界を超えている」、どれをとっても、これから様々に関連しあって、相乗効果的に親子を追い詰めていく現象なのです。

「保育士不足のおり、辞められるのが怖くて、注意できませんでした」という園長の言葉が、誰によって創造されたか、よく考えて欲しい。「ママがいい!」という言葉が、どういう順番で耳に入らなくなっていったのか、政治家やマスコミ、学者たちが、乳幼児期の母子分離に、なぜ、これほどまでにこだわったのか、よく考えてほしい。

(「ママがいい!」、ぜひ読んでみてください。周りに薦めてください。保育界にとっては「痛みを伴う改革」かもしれない。でも、将来の保育士たちの「幸せな人生」のために、もうラストチャンスかもしれない。学校教育の崩壊が目の前に迫っているのです。マスコミも真剣にならざるを得ないと思います。

松居和チャンネル、第10回まできています。ぜひ、参考にして下さい。保育士たちの研修に使っていただけると嬉しいです。大学で習った「保育はサービス」という概念を払拭しないと、本当の保育は返ってこない。よろしくお願いいたします。講演依頼は、matsuikazu6@gmail.comまで、どうぞ。)