保育士の一斉退職 #2

「女性の社会進出」「社会復帰」という言葉が、当たり前のように使われるようになり、エンゼルプランという偽善的な名を付けられた施策で、政府や学者が定義する「社会」から、子育て中の母親は除外されはじめた頃、「女性学」と、現場の女性園長たちの思いが、実は、激しくぶつかっていた。
「男女共同参画社会」という仮想現実を目指すために、保育園を使った母子分離が「平等」の名の下に加速し、「子どもが可哀想」という「思い」が時代遅れと否定され、「専門性」で子育てができるという、保育学者たちの思い上がりが、保育界から「魂」を奪っていった。

それが、
保育士の一斉退職 「このままでは子どもが守れない 最後の手段です」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240424/k10014429461000.html
というNHKの報道につながっている。

政府が、「ママがいい!」という子どもたちの願いを優先しないばかりか、
専門家会議が、11時間保育を標準と名づけ、保育学者たちがそれに体を張って抵抗しなかった。保育士たちも、当然のように、自分の人生を優先するようになってくる。それでいいのかもしれない。「一斉退職」、これが子どもたちを守る最後の手段、母子分離にブレーキを掛ける最後の方法になるのかもしれない。

学者は「専門性」で保育ができる、とか、あなたたちは「子育ての、プロなんだから」といい加減なことを「資格者」たちに言ってきた。その「資格」は、定員割れを起こしている資格ビジネスが、存続のために乱発している「資格」に過ぎないことを、彼らは知っていた。
保育が、「子育て」ではなく、プロのやる「仕事」のようになってくれば、安全性を考えて、みんなで辞めていくのも、プロの決断でしょう。
保育崩壊が始まろうとしている。

こども家庭庁の「こども未来戦略会議」は、「性別役割分担意識からの脱却」を、「働き方改革を正面に据え」て実施していく、と宣言した。子どもたちの「安心」が視野に入っていない。
「戦略会議」の(偽)「専門家」たちは、保育界が、「女性らしさ」と「祖母のごころ」で成り立ってきたことを知らない。「長時間保育は、子どもが可哀想」と思う「母性」を、学問とか「専門性」、人権とか「平等」という机上の論理で否定され、女性たちが、男性主導の市場原理、損得勘定に背を向けはじめている。それが、保育士の一斉退職 「このままでは子どもが守れない 最後の手段です」という記事に現れている。

「性別(性的)役割分担意識」なしで人間社会は成り立たない。
結婚が、人生の主目標から外れ、子孫を作ろうとする意欲は薄れる。しかし、この会議は、「それは困る、少子化は困る」という。そして、「子育て」の苦労を減らしてやれば産む、として母子分離を進め、それを「異次元の少子化対策」と呼ぶ。いい加減にしろ。論理が破綻している。

こども家庭庁が出した「子ども未来戦略」(令和5年6月13日閣議決定)は、「キャリアや趣味など人生の幅を狭めることなく、夢を追いかけられる」ように、誰でもいつでも子どもを預けられることが「子育て安心」なのだ、と言う。
人間が本来持つ感性を、失わせる。
それは、いわばキャリアや趣味における幅や深みを探る感性を捨てるようなもの。自身の人間性に気づく機会を放棄させておいて、それが「安心」だという。

子育ては、人生の幅を狭める「障壁」ではない。

こういうやり方で、子どもたちと過ごす時間の価値を下げ、親たちを子育てから遠ざければ、やがて保育士も去っていく。「動機」が悪い。稚拙すぎる。
学校の先生も、教師であることの価値が見えなくなり、親たちの子育て放棄に耐えられなくなり、その職から去っていく。

閣議決定されたこども家庭庁の「子ども未来戦略」の冒頭に、戦略が作られた理由として、「インド、インドネシア、ブラジルといった国の経済発展が続き、追い抜かれれば、我が国は国際社会における存在感を失うおそれがある」とある。「誰でもいつでも」は「海外では常識」とニュース番組で言った学者の偽情報の向こうに、子どもの日常の幸せを後回しにした経済「戦略」がある。
GDPで「子どもたちの未来」を測るのは単純過ぎる。政府は、この国の文化・伝統を馬鹿にしている。

「子ども未来戦略」で、(慣らし保育なしの)「子どものショートステイ」(生後60日から十八歳未満対象。育児疲れ、冠婚葬祭でもOK。一泊二千円から五千円)を、「圧倒的に整備が遅れている」と、こども家庭庁が言い切るのを読めば、わかる。
このショートステイを厚労省が10年以上前に始めた時、園長たちは、「これは政府によるネグレクト(育児放棄による虐待)の勧めでしょう」と言っていた。
過去三十年間の保育施策、「子育て支援」=「子育て放棄支援」は、政府によるネグレクトの勧めだった。そう思っている園長たちには、「戦略」が言う「整備」の本当の意味がわかる。
専門性という言葉を自分たちに押し付けて、彼らが実は何をしようとしているのかが、わかるのです。

だから、こういうことになる。

保育士の一斉退職 「このままでは子どもが守れない 最後の手段です」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240424/k10014429461000.html
(NHKの報道。)