園と家庭の信頼関係



(一日保育士体験の実施を始めた保育園からお手紙をいただきました。保育士たちを、もうこれしかない、という予測でこんな立場に追い込んでいる私も辛いのですが、これから子どもたちが過ごす大切な時間の質のために、お願いし続けるしかないのです。子どもを思う保育士たちが理解してくれる、それが救いです。ぜひ、親たちに知って欲しいのです。この挑戦を受け入れてくれる保育士たちの心は「利他の心」だということを。

 行政や政治家が子どもを優先して考えようとしない現状の中で、いつでも親に見せられる保育をし続けるということは簡単ではないということを。)

(中略)

 保護者様には、4月の保護者会、また詳細は書面にてお知らせしましたが、特に質問を受ける事は無く、対象の保護者様全員がすぐに予定を入れて下さいました。ただ、始めて2回実施しただけなのでまだ何とも言えませんが、アンケートには・・・

 「3年のうち1回で十分(今回の一回で十分)」

 「働いている保護者が毎年参加するのは疑問!」

 と言った声が聞かれます。当園も来年度からは全学年にて実施したいと考えておりますが、こういった声が多いと正直こたえます。

 子どもは日々成長しますし、保育士(園)と保護者が理解し合い、同じ方向を向いて子育てできるようになるには、とうてい2、3年に1回でできることではないですし、年に1回でも少ないくらいだと感じています。要は、こちらの想いがまだ保護者の方に伝わっていないのだと感じました。

(後略)

 

(私の返信)

「3年のうち1回で十分(今回の一回で十分)」

「働いている保護者が毎年参加するのは疑問!」

 意図が善意であるだけに、こうした反応を乗り越えてゆくには、遠くを眺めての根性が要ります。すみません。でも、乗り越えてゆくしかないのです。乗り越える、と決めてしまって下さい。

 「中学校で連立方程式を学ぶのは疑問」とは誰も言わない。いつか、保育と一日保育者体験はセット、という風にならなければ本当の普及にはなりません。ご苦労をおかけします。

 保育界全体を視野に、保育の質を保つため、未来の無数の親子関係のために、よろしくお願いします

 自信をもって、「子どもたちが喜びます」と繰り返すこと、そして、夫婦が両方とも参加することを目指すのも、意図を伝えるための鍵でしょう。

 この園では全員参加、毎年参加を目指します、とはっきり宣言したほうがいい、とおっしゃる園長もいます。法律となり告示化された保育所保育指針に保育参加が書かれ、こういうことをするのが保育園の義務の一つになったのだ、と伝えることも場合によっては必要かもしれません。

 本当に子どもたちの将来を考えれば、祖父母まで範囲を広げたいくらいですよね。

 いつか、保育者たちが親子の幸せを願ってやっているのだ、という意図が通じる日が来るはずです。

  園と家庭の信頼関係を作ることを目標に、努力や試行錯誤をすることによって、職員の心が一つになってゆくことも、実はとても大切なことなのかもしれません。そうすることによって自分たちの直面している子育ての現実と生き方を把握、確認することにもなります。

 「要は、こちらの想いがまだ保護者の方に伝わっていないのだと感じました」とお書きになっていらしたので、心配はしていません。その通りです。そしてそれこそが保育界にとって一番重要な課題なのです。子育てを共にしながら、保育士と親たちの心が一つになっていない。これは、良い課題を与えられたぞ、という解釈をそこに加えていただければ、揺るがない生き甲斐になるかもしれません。

 よろしくお願いいたします。

松居


 2008年新待機児童ゼロ作戦に「希望するすべての人が子どもを預けて働くことが出来る社会」を目指す、と書かれたとき、「希望するすべての子どもが親と一緒にいることが出来る社会」を目指すことの方がよほど自然で、社会に「絆や人間性」を取り戻すことになるのではないのか、と心を痛めた保育士が日本中にたくさんいたのです。一緒にいることは出来なくても、せめて年にたった一日、一人ずつ、親たちが「さあ、今日はあなたが優先だよ」という姿勢を自分の子どもだけではなく、ほかの子どもたちにも見せてくれたら、それは社会に信頼関係を取り戻す意味で、大きな一歩になるはずです。

 「すべての子どもが、親と一緒にいることを希望する」これが哺乳類。それが揺らいだとき、人類は幸福になるために一番必要な宇宙からの「信頼」を失うのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です