“行方不明児20万人”の衝撃 「中国 多発する誘拐」/アメリカの現実

(国、制度、経済、福祉、教育…。人間社会の仕組みが、人間性を逸脱しはじめている。)

NHKクローズアップ現代/ http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3644_all.html

行方不明児20万人の衝撃  「中国 多発する誘拐」

中国の街角で写真を掲げる人たち。子どもを誘拐された親たちが救出を訴えています。

「もう一度子どもに会って抱き締めたい。」

今、中国では子どもの誘拐が大きな社会問題になっています。年間20万人の子どもが行方不明になっているといわれる中国。都市部の小学校。下校時間になると、誘拐を恐れる出迎えの親たちであふれ返ります。「心配で幼い子どもを一人で帰宅させられません。」

取材を進めると、誘拐された子どもは農村部に売られていることが分かってきました。貧しい農村では老後を支えてくれる子どもがいないと生活できないといいます。

誘拐された子どもを買った女性:「息子を買ってこなければ、養ってくれる人はいませんでした。」

急速な経済発展の陰で多発する、子どもの誘拐。

中国社会のひずみが生み出す犯罪の実態に迫ります。

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報道は続きます。ここからは私見です。)

 二十五年前に著書「家庭崩壊・学級崩壊・学校崩壊」(エイデル研究所)に書いたのですが、当時アメリカで誘拐される子どもが毎年十万人。ほとんどが解決しない、という現実がありました。私が本を書いたり、講演したりするきっかけとなった凄まじいばかりの家庭崩壊の状況が、当時「国家の存続に関わる」と定義されて報道されていました。そんな中、我が子を探す親たちが、不特定多数の誘拐犯に語りかけるコマーシャルを作り、時間枠を買ってテレビに流していたのを思い出します。

「この電話番号に電話して下さい。警察には届けません、相談に乗ります」というメッセージを見た時に、一体この国では何が起こっているのだろう、と愕然としたのです。そして、状況を知れば知るほど、そのコマーシャルの向こうに、家族を求めての誘拐ゆえに解決しにくい現実と、悲しみに苦しむ親たちの必死さと絶望感を感じました。

 離婚後親権を失った親たちが我が子を誘拐する。州を越えるとFBI(連邦警察)の管轄になり、よほど運がよくないと誘拐された方の親は一生子どもと再会することはない。

 ほとんどの幼稚園、保育園で、将来子どもが誘拐され人相が変わってしまうほど成長してしまった時のために、指紋を登録しておきましょう、と薦めるチラシを親たちに配られていました。近所のスーパーマーケットで買い物をすると、牛乳パックに誘拐された子どもの写真と特徴が印刷されていて、よく読むと、つい数ヶ月前、すぐ近所で、というのもありました。

 理由は違っても、家族を求めての誘拐であることが今回の中国に関する報道と共通しているのです。

 背後にあるのは、人間が作った仕組みの中で「伝統的な家庭観」が失われてゆく異常な状況です。アメリカと中国、世界のパワーを二分する二つの大国で、家庭崩壊が根底にある孤立感が人々の不安を煽り、誘拐という形で子どもたちを巻き込んでゆく。競争社会で子育てをないがしろにしておきながら、いざ孤立すると、駆け引きや裏表のない子どもたちの純粋さに救いを求めようとする。「家族」を求めようとする。グローバル経済の行く末を暗示する、象徴的な流れだと思います。

 子どもを将来の労働力としてしか見ずに、とにかく生めば社会(仕組み)で育ててあげると政府が言い、「みんなが子育てしやすい国」と厚労省がパンフレットで宣伝し、実はプラス40万人の乳児を預かろうとしている日本。この不自然な流れを、子育ては育てる側の喜びがあって存在する、という方向に戻していかないと、日本でも形こそ違え家庭崩壊が始まり、子どもたちがそれに巻き込まれ、数十年先に、中国や米国と同様のことが起き始めるのです。

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 三歳までに愛着関係が希薄だった子どもたち、数人の善意に囲まれなかった子どもたちの寂しさや悪意に対する反応はすばやい。肌が繊細に、敏感になっているから、なおいっそう愛情を養分にしようとしてもがく。だから学校に入って、教師たちの視線の温度差がより決定的になってしまう。そして、その要望と視線に、教師たちの決意が追いつかない。

 体験から生まれた大切なものが欠けているから、経済という脅しにひっかかるのだと思う。大切なものがないから、情報を信じ、それこそが大切だと言い始める。

 一日保育士体験。人が人に戻る瞬間を一番簡単に目撃できる方法だと思う。予算もほとんど要らない。この状況下でソフトランディングするなら、この方法しか無いと思う。

 子どもの体や心より大事にされる経済。それに一体何の意味があるのだろう、と首相に聞きたい。国とは一体何なんだろう、と聞きたい。