LD王子講演会の映像/不特定多数の「誘拐犯」に語りかけるCM

 LD王子溝井英一朗君の講演会で再会した教え子からメッセージと、YouTubeにアップされた英一朗君の講演会の映像アドレスが届きました。学校の先生たちにぜひ聴いていただきたい、LD児本人からのメッセージです。

 

柳下さんからのメール

「音のない一日。学生時代の教本とその続本を読みます。あの頃の@kazu_matsui先生の授業「深夜のメッセージ」は何を意味していたのか今ならしっかり理解できます。」

「下記、先日の講演を溝井さんがFBにアップしたものです。」

http://www.youtube.com/watch?v=MwpnGfD04FE&feature=youtube_gdata

http://www.youtube.com/watch?v=FuD_sIPhgEM

http://www.youtube.com/watch?v=-YDCGkQQMx4&feature=youtube_gdata

http://www.youtube.com/watch?v=ekPd-HnW3ws&feature=youtube_gdata

http://www.youtube.com/watch?v=DOjGhk7etgo&feature=youtube_gdata

http://www.youtube.com/watch?v=Tufz-T2jFok&feature=youtube_gdata

「海を渡ったLD王子?」溝井英一朗13.1.10

——————深夜のメッセージ–——————

 「深夜のメッセージ」ずいぶん昔のことですが、思いだしました。私の二冊目の本「子育てのゆくえ」(エイデル研究所)か、一冊目の本(「親心の喪失」として再販)に書いた文章だったと思います。柳下さんが受けていた保育科の授業で使ったのです。

 25年前でしょうか、アメリカに住んでいて、東洋英和の保育科の授業に毎週ではありませんが、通っていたのだと思います。当時、ロサンゼルスで、深夜、奇妙なコマーシャルがテレビから流れてきました。不特定多数の「誘拐犯」に語りかけるCMでした。

 「もし、あなたが子どもを誘拐してしまったなら、この電話番号に連絡して下さい。警察には届けません。相談にのります」というコマーシャルでした。

 こんなメッセージが深夜テレビから流れてくる社会がある、数字から見る現実とは違った驚きがありました。アメリカという社会を象徴している、と思って本にも書いたのです。一年間に誘拐される子どもの数が10万人と言われ、その多くが親による誘拐。養育権を失った親が、自分の子どもを取り返すために誘拐する、というケースでした。親による誘拐とはいえ、れっきとした犯罪です。捕まったら刑務所行きです、逃げる方も必死です。州を越えた犯罪は連邦警察(FBI)しか捜査できない状況で、誘拐された方の親の9割が子どもと二度と会えないのが現実でした。身代金を求めての誘拐なら、子どもが見つかる可能性が高い。しかし、家族を求めての誘拐はほとんど解決できない。実際は、親による誘拐かどうかも判断できないのです。年に10万人の親が、子どもを一生涯失う、それがアメリカの現実でした。そして、子を失った親たちの悲痛な願いが、CMという形で深夜、流れてきたのです。

 その頃、アメリカで幼稚園に子どもを行かせると、必ず「子どもの指紋を登録しておきますか?」と園から聴かれました。誘拐され、何年もたって姿や顔つきが変わってしまってから見つかった時に確認するための手段です。それもまたアメリカの現実でした。

 当時、アメリカの全人口の150人に一人が刑務所の中に居たのが、今では100人に一人、子どもを取り巻く状況は決して良くはなってはいないはずです。

 私の教え子は、学生のころ、その状況にリアリティーを感じなかったのでしょう。でも、20年後、日本で幼稚園教諭や発達障害児の支援をしながら、『「深夜のメッセージ」は何を意味していたのか今ならしっかり理解できます。』と書いてきたのです。

 最新刊「なぜわたしたちは0才児を授かるのか」(国書刊行会)では、渡米してすぐの頃、私がアメリカという国の入口で出会ったエピソードについて書きました。当時小学校の五年生だった従姉妹の誠子に、ある日、「学校ではどんなことを友だちと話すの?」と聞いたのです。すると、いまでは医者になっている利発な従姉妹は、「そうね、今度のお父さんは、とか、今度のお母さんは、という話が多いね」と言ったのです。

 小学五年生の子どもたちの日常の話題が、今度のお父さん、今度のお母さん、であって、その会話を大人たちが聴いていない。人類の根幹が揺らいでいる、しかし、人間はこういうことに慣れる。直感がありました。そして、先進国と言われるその国で、何が崩れようとしているのか、意識して観察するようになったのです。その会話の数年後に、「深夜のメッセージ」が加わり、家庭を崩壊させながらも、それにしがみつこうとする、人間たちの性を感じました。裁判所の中でおこる発砲事件は家庭裁判所が一番多い、ということを知りました。その数年後に「Nation in Crisis」(高卒の二割が読み書きができない。学校が機能しない。)というアメリカ政府が「国家の存続に関わる緊急かつ最重要問題」と定義した学校教育の危機が明るみになり、私は次の年、義務教育の普及が家庭崩壊を招き、家庭崩壊は義務教育の崩壊につながる、という図式についての本を書きました。

 (義務教育が悪いと言ったのではないのです。その存在自体が「子育て」を夫婦から奪うことによって、子どもが親と親たちの絆を育てることができなくなり、それが社会からモラルと秩序を奪うという、全ての欧米社会で起こったことを率直に書いたのです。)

 そして世紀末、「母子家庭に任せておくと犯罪が増えるから、政府が孤児院で育てよう」という『タレント・フェアクロス法案』の連邦議会提出が重なっていったのです。

 この法案に賛成し「孤児院と考えなければいい、24時間の保育所と考えればいい」と発言した当時の下院議長が、去年の大統領選で、破れはしましたが共和党の指名をロムニー氏と争ったギングリッジ氏です。教育と福祉、そして家庭は共存することが出来るのか。落としどころはあるのか。この私が米国で見たいくつかの象徴的な出来事を並べれば、先進国社会が一律進んでいる方向と結果の可能性はあるていど予測できるはずです。日本はちがった道を進んでほしい。その義務があるような気がします。人類全体のために、日本はちがった道を試行錯誤してほしい。そう言い続けて25年になりました。みなさん、どうぞ、よろしくお願いします。

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なぜわたしたちは0歳児を授かるのか-親心の幸福論

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