園児と薬物(子育てと相談相手)
千葉で保育士が警察に逮捕され、園長が取り調べに、「保育士不足のおり、辞められるのが怖くて注意できませんでした」と言ったのが三年前、これは新聞の記事にもなりました。
そしていま全国で、「週末、子どもを親に返すのが心配です。せっかく五日間いい保育をしても月曜日、また噛みつくようになって戻ってくる」、「せっかくお尻が綺麗になったのに、月曜日、また真っ赤になって戻ってくる。48時間オムツも替えないような親たちを作り出しているのは私たちなのではないか」という声が保育現場から聞かれる。これでは「子育て」をする信頼関係が育たない。保育の仕組み全体が「子育て」をする限界を超えている。
家庭と園の心の連携が毎年、より一層難しくなってきているのです。
保育士不足、発達障害児の早期発見、それに対する加配の限界、そして親の意識の変化、様々な要素が重なっているのかもしれません、専門家の薦めと、時に親の要望で、行動や発達に問題のありそうな幼児に薬を飲ませておとなしくさせるケースが増えている気がします。薬物でしつけの代わりをしようとする。愛着障害を薬物でごまかそうとする。
「問題児だったけど、毎日あんなに甘えて抱きついてきた子が、突然『抱っこはもういい』と虚ろな目で言うんです」それが悲しい、と保育士が言うのです。そんな保育士が可哀想です、と園長が私に言うのです。大自然からもらっている治療法、双方向への自然治癒力、自浄作用、「抱っこ」が、薬物に代わられてゆくのです。
数年前、都の認証保育所に勤め始めた保育士が、園長から抱っこするな、話しかけるな、と指導され驚いたという話を思い出します。子どもが生き生きすると事故が起こる確率が高くなる、という園長の説明が、すでに保育の限界を示しています。3分の1は資格なしでもいいなど様々な規制緩和の中で、信頼できる保育士を確保できない状況に追い込まれている園長先生も哀れです。安全最優先が「抱っこしない保育」につながるのです。それでも預かれ、と政治家たちは言う。「生活のためだ」とマスコミも言う。
一体「生活」とは何なのだろう。
幼児たちの「生活」を眺めながら、保育士は考えるのです。だからいい保育士が辞めてゆく。
アメリカでは、小学生の10人に一人が学校のカウンセラーに薦められ薬物を飲んでいると言われます。薬物で子どもをおとなしくして画一教育を可能にして、かろうじて教師の精神的健康を保っている。一人の教師に、30人のしつけもできていない、愛着障害が考えられる子どもの「子育て」を任せようとすれば、熱心な先生、感性豊かな先生から順番に精神的に病んで、辞めてゆく。教師不足は深刻です。
(アメリカでは、4割の子どもが未婚の母から生まれ、18歳になるまでに40%が両親の離婚を体験します。愛着障害と児童虐待が犯罪の増加の根底にあるのです。)
(25年前、東京都で休職していた先生の四分の一が精神的病で休職していました。いま、それが7割といいます。社会で子育ての限界がそこにはっきり現れています。幼稚園・保育園の段階で、親子の愛着関係をしっかり育ててゆかないと、義務教育が義務である限り教師の精神的健康が崩れてゆく。)
(政府が、資格なしでもいい、と進め、ビジネスコンサルタント会社が、儲けるならこれです、と薦めている障害児のデイなどは、まさに薬物による子育て支援の出発点になりそうな危険な構造になっています。http://kazu-matsui.jp/diary2/?p=269)
義務教育が普及すると、子育ての肩代わりが起こり、「子育て」が夫婦の絆をつなぎとれられなくなって家庭が崩壊し始める。家庭が崩壊し始めると義務教育が成り立たなくなる。その結果、薬物や警察に頼らないと義務教育が成り立たなくなってくる。アメリカでは、学校教育における薬物使用の背後に製薬会社の利権がある、と言われます。薬物の利用は、人間の絆の崩壊、家庭崩壊、孤立化と比例して増え続けます。
学校のカウンセラーが薦める薬物が、将来、麻薬中毒やアルコール中毒につながっている、という研究が20年前すでにアメリカでされていました。「子育ての社会化」などまったく無理な話で、福祉や教育で「子育て」はできない。結局、薬物や司法制度に頼ることになる。
アメリカで昨年4万7千人が薬物の過剰摂取で命を落としているのです。過去最高だそうです。(人口比で割れば、日本で毎年2万人が薬物で死亡するということ。)子育てが中心にならない社会で、人々の孤立化が進んでいるのです。
去年、首相が国会で40万人乳幼児を保育園で預かれば女性が輝くといい、ヒラリー・クリントンがエールを送ってくれました、と言ったことを、こういうアメリカの現実を見ながらよく考えてほしいのです。子育てを家庭から奪うことの本当の意味を考えてほしいのです。政治家や学者が薦める「社会で子育て」「保育は成長産業」という経済主体の流れを早く変えないと、日本の仕組みも少しずつ欧米の真似をし始めているのです。
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テレビや新聞報道で、子どもたちの「心のケア」という言葉が言われることがあります。場面は様々ですが、日本人がこの言葉に慣れ始めている。それがとても危うく見えるのです。「ケア」という英語が導く先に家庭崩壊した欧米社会が見えるのです。「カウンセラー」(相談相手)は、まず親でなくてはいけない。しかし、カウンセラーという横文字に「専門家」というイメージが重なると、いまだに欧米コンプレックスが残っているこの国では、その人たちが子どもをケアしたほうがいいのではないか、という風に考え始める。ところが、こういう横文字の専門家たちは、実はその子と一緒に暮らしたこともない素人で、その資格さえかなり怪しいもの。その事実を隠すために薬物の方向へ向かいたがる。少なくとも、アメリカで40年前に起こった流れを見ていると、それがわかるのです。
こんなやり方は、本来、日本人の選択すべき方法ではなかったはず。日本人の相談相手は、そういう最近できた専門家たちではなかったはず。親身でもない、絆も育っていない、ただちょっと学問をしただけの、自分自身も心に問題を抱えている場合がとても多い「カウンセラー」たちではなかったはず。
「分け入っても、分け入っても、青い山」(山頭火)
「じっと手を見る」(啄木)
自然との会話、自分の手との会話、それはすなわち自分との会話宇宙との会話、それがこの国の伝統だったはず。この非論理的な会話の入り口に0〜2歳児が座っている。この人たちとしっかり、ゆっくり付き合って、人間は、年をとってから、お地蔵さんとも、盆栽とも話せるようになる。海や山や川とも話せるようになる。
自然治癒力が遺伝子の中にはちゃんとあって、それは言葉のやり取り以前に組み込まれたものが多いのだと思います。
幼児を眺める、命を眺める、という一番のカウンセリング方法を政府が「重荷」と見なして人々から奪おうとする。そして、問題が起こると安易に「心のケア」などと言う。専門家に、親や親戚、隣近所以上の働きはできないのに、学者や政治家たちは、資格を持っていればできると思っている。しかし、(保育もそうですが)その資格を出す「学校」「養成校」が、明らかに資格を与えてはいけない学生に平気で資格を与えるようになっていて、市場原理の一部になっているのです。
長い間、人類にとって「幸せを見つける」一番のカウンセラーだった、生産性のない幼児たちと老人たちが、「子育ての社会化」という言葉で、その役割を失ってゆく。
ひきこもりや不登校になっている小学生や中学生に、保育園で三日間も幼児に囲まれる体験をさせてあげれば、ずいぶん生き返ってくるのです。義務養育の中で、幼児たちが人間たちにとって一番の相談相手だったことを、子どもたちに教え、体験させてあげてほしいと思います。あの人たちは理解します。
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このブログをアップしたあと、「抱っこは母と子の共同作業です。と力説している先生がおられたのを思い出しました」というツイートをいただきました。
抱っこは双方向です。だからこそ、このブログに書いた子を、毎日抱っこで鎮めようとしていた保育士が、親から何も相談されずに、薬で鎮められた子供にある日突然「抱っこはもういい」と言われた時の気持ちを考えると、保育という仕組みの切なさをひしひしと感じるのです。
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参考資料
薬物の過剰摂取の死亡者、過去最高を記録 米CDC
http://www.cnn.co.jp/usa/35075600.html
以下、 以前書いたブログからです。数年前のこの状況に、保育士不足が重なっているのです。;
(園長先生からのメール)
船井総研に次いで、どしどしビジネス保育の営業が増え始めましたね。安易に保育を始め、事故や問題おきたら逃げてしまうんでしょうね。事故というより刑事事件であることも理解しないままに。
http://www.info-studies.com/hoiku-top/
小規模保育がターゲットだそうです。
(内容は)
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(私の意見:保育は「何から、どう始めていいかわからない」人、「今まで保育園経営などにまったく興味のなかった方」がマニュアルを読みながらやる仕事ではないはず。こんなことが市場原理として政府によって推し進められているのです。だから保育園が騒音に聴こえてくるのです。)