こんな幼稚園は地域の宝。黙っていても地域に絆を生み出します。学校を縁の下で支えます。

「公立幼稚園」は私が好きな形だった。それが無償化で都市部では入園希望者が突然十分の一になり、選択肢のある自治体では一気に廃園に追い込まれている。たった三カ月で、自然に親が育ち、絆が育つ仕組みが壊されていく。
数年前に次のような文章を書いた。

長年地域に根付き、思い出や絆を作ってきた「公立幼稚園」をなくそうとする市長がいます。反対する母親たちから相談にのってほしいと言われ、広島で講演したあと、神戸で会いました。(神戸の市長の話ではありません。)

「公立幼稚園は親にサービスしないから親が育ちます。助け合わなくてはならないので、絆も育つ。もともと二年保育が多いし、このあたりでは二十年前、私立幼稚園の経営を邪魔してはいけないという主旨で、一年保育がありましたよ」と私は、始めに言いました。親たちの民営化反対の意図がどこにあるのか、探ってみたのです。

公立幼稚園は送迎バスもない。給食も、預かり保育もない。保育料は安いのですが、親たちは助け合うしかない、補い合うしかない。「いいですよねえ」と言うと、目を輝かせて、「そうなんです、何もしてくれないんです。しかも、行事や役員など色々押し付けられるんです。そういう園が、私たちは好きなんです。心が一つになるんです」とお母さんたち。ああ、この人たちはわかっている。ちゃんと育っている。こんな幼稚園は地域の宝。黙っていても地域に絆を生み出します。学校を縁の下で支えます。

こういう園の運動会は、部族的で、村社会的で、賑やかで、親身で、公立ですから障害を持っている園児がいたりして、そうすると、みんなで涙を流して応援する。こういう園は、一度失ったら再生不可能な親心のビオトープ、エコシステムなのです。

日本中すべての幼稚園・保育園がこんな感じだったら、私たちはもう一度、あの『逝きし世の面影』(渡辺京二著)の「子どもの楽園」(後述)の章に出て来る本当の日本、百五十年前に欧米人が書き残した「パラダイス」を体験できるのでしょう。それを民営化、こども園化して市長が壊そうとする。目先の選挙のことだけ考えているのでしょうか。

「市長は、こども園のほうが長く預けられるし、無料になるんだ、と言うんです。私達はそんなこと望んでいないのに」と静かに怒る母親たち。「こども園だと無料で、幼稚園だと有料になるんですか?」と私に訊く。

「そんなことはないですね。そこまで嘘を言って民営化を進めたがるには何か別に理由があるはずです」と答える。

聴けば公立幼稚園の職員はすでに六割が非正規雇用化されている。財政も特別悪そうではない。地方の場合、こういう時は、背後に利権がらみの癒着があったりする。そうなると「子どもの最善の利益」などという言葉は通用しない。

ほとんどの自治体で政府の施策によって保育が危険な状況にさらされている中で、公立幼稚園が十園まとまって親を鍛えながら、これだけ親に支持されているのは奇跡かもしれない、というようなお話しをしました。(後略)