小野省子さんの詩が組曲に。三月十四日18:30に東京オペラシティで演奏会があります。

 私がいつも講演で「おかあさんどこ」と「愛し続けていること」の二つの詩を朗読し、詩集を毎回、全部合わせたら四万部くらい配らせていただいている小野省子さんから連絡が入りました。小野さんの詩に窮地を救われたり、ホッとしたり、人生の意味を教えてもらった人はたくさんいるはずです。私も、いまだに朗読していて泣きそうになることがあります。

 

「母になって、気づいた、せんぱいママ、重み、愛し続けていること」が、組曲になりました。女声合唱とピアノのための組曲です。作曲家の松下耕さんが作って下さいました。

3/14に東京オペラシティで演奏会があります。

3/14(土)東京オペラシティ:リサイタルホール 18:30

旭が丘女声合唱団 第9回演奏会)(2000円、お問い合わせ:宇賀神 090-6038-2708

 

 

母になって

 

時に私は

絶対君主の王となって

腰に手をあて、有無を言わさず、

叫ぶ

なぜ?という問いかけなど無駄だ

「今すぐおもちゃを片付けて

テーブルにつきなさい!」

 

時に私は

彼らの下僕となって

雑巾を持って床をはいずり

彼らの食べかすを拾い集める

 

排泄のたびにパンツをおろし

夜中に目を覚ませば水を運び

眠りにつくまで歌を歌う

 

そうして彼らは

毎晩ふとんの上で

神様になる

私の背中に頬をよせ

私の胸に鼻をうずめ

ぴったりとくっついてくる小さな体

 

私は彼らの存在が

私の過去の過ちを

すべて許してくれたのだ、と信じこみ

しみこんでくる鼓動や

ささやくような温もりに

感謝の祈りを捧げる

 

 

 

気づいた

 

何かを失ったと思っていた

何かを奪われた、と

だけど今、

光の粒をふきあげる噴水のように

キラキラと笑うあなたを見て

あなたが幸せになるなら

私の幸せを全部あげてもいいと思った

 

何かを失ったと思っていた

何かを奪われた、と

だけど今、

公園の芝生の上 両手をひろげて

小鳥のように走ってくるあなたを見て

失ったものなどひとつもない、と気づいた

あなたがあなたの幸せで

私を満たしてくれたんだ、と気づいた

 

 

せんぱいママ

 

大切なのは

愛情よりも根性なのだと

その人は笑った

 

こぼれ落ちるほどの

愛情に満ちた笑顔で

 

根性のない愛なんて

ただの泣きごとなんだと

その人は笑った

 

まぶしい黄色のタンポポが

やわらかな綿毛に変わるように

その人はふいに笑うのをやめて

「だけど、私もいっぱい泣いたよ」と、

やさしく言った

 

重み

 

自分が少し悲しむと

お母さんがすごく悲しむから

それがつらいと娘が言った

 

自分が泣いていると

お母さんがすごく気にするから

それが嫌なんだと 私をにらんだ

 

ああ こうして親たちは

やわらかな手かせ足かせとなるのだろう

あたたかな鎖をからませるのだろう

 

多くの子供たちが その重みで

何かを思いなおすのだろう

何かを思いとどまるのだろう

投げやりに進み始めた歩みは止めて

声をあげて引き返すのだろう

 

 

 

愛し続けていること

 

いつかあなたも

母親に言えないことを

考えたり、したりするでしょう

 

その時は思い出してください

あなたの母親も

子供には言えないことを

ずいぶんしました

 

作ったばかりの離乳食をひっくり返されて

何もわからないあなたの細い腕を

思わず叩いたこともありました

あなたは驚いた目で私をみつめ

小さな手を

不安そうにもぞもぞさせていました

 

夜中、泣きやまないあなたを

布団の上にほったらかして

ため息をつきながら

ながめていたこともありました

あなたはぬくもりを求め

いつまでも涙を流していました

 

私は母親として 自分をはずかしいと思いました

だけど、苦しみにつぶされることはなかった

それは、小さなあなたが

私を愛し続けてくれたからです

 

だからもしいつか

あなたが母親に言えないことを

考えたり、したりして

つらい思いをすることがあったら

思い出してください

 

あなたに愛され続けて救われた私が

いつまでもあなたを

愛し続けていることを

 

 

 

 

 

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