子育ては、経済的損失?

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 「出産退職年20万人、経済損失は1.2兆円 (民間研究所試算)」という新聞記事。テレビなど他のマスコミも一斉にニュースとして報道していました。

産まれたばかりの子が親と居たい、出産したばかりの親が子と居たい、そう思う気持ちを1.2兆円の損失と計算する経済学者たちの異常さ、馬鹿馬鹿しさ。それを真実のように報道する新聞の無感覚さ、いい加減さ。あきれるばかりです。いったい、いつからこんな世の中になっていたのでしょう。幼児期の子育てに関する常識はどこへ消えてしまったのでしょう。

ここでいう「損失」とは、誰にとっての損失なのか。子どもの立場にたった「損失」を誰か考えているのか。そうしたことを誰も、しっかり考えずに、情報は真実として流れていく。

経済と幸福は、本来一体でなければ意味がないはず。そして、幸福は金額で計れるものではない。そんなことは、昔話にだって繰り返し書いてある。

富を幸福と勘違いすると、弱者(特に幼児)の居場所、存在意義が消えてゆく。「いい加減にしてほしい!」と叫びたくなります。こういう報道の向こうに保育士不足のなかで、子育てを押し付けられ、立ち往生している保育士たちがいる。「学校を託児所だと思っている親が増えてきた」と悩む校長先生がいる。国が経済的損失1.2兆円を出さないようにするために、この人たちの精神的健康が崩れていくのを放置するのだとしたら、そして親たちの意識が経済優先、自分優先に変化していくのをそのままにしておくのだとしたら、その損失こそ計り知れないものなのだ、といつか気づくはず。それに、いま気づく学者や政治家はいないのか。

限られた財源の中で、こうした人間性に関わる意識の変化を補うために、保育を含む福祉や、学校教育の質がどんどん落ちてゆくのであれば、その損失の方がはるかに恐ろしい。子育てがたらい回しにされることによって、消えていくモラル・秩序に対応するために、司法や警察力に頼るのであれば、それにかかる経費はこの先加速度的に増えてゆく。
「出産退職年20万人、経済損失は1.2兆円」、こうした馬鹿げた計算の裏には、富を幸福と勘違いさせないと、資本主義は回らない、と思っている人たちがいる。でも、そのやり方はネズミ講と同じで、ごく一握りの人たちしか「幸福」を得られない。
子育ては、人間が損得勘定から離れることに幸せを見出す体験で、これをすると、優しさとか忍耐力といったいい人間性が社会に満ちてくるし、より多くの人たちが、信頼関係に囲まれる安心感を得ることができる。「自立」を眼差すことよりはるかに安定した「信頼関係」という幸福感を得ることができる。
イエスは、貧しきものは幸いなれ、と言った。お釈迦様も欲を捨てる方が幸せになれる、と言っていた。そして二人とも、幼児たちに指針を求めよ、と教える。砂場で遊ぶ幼児たちを眺め、なぜ彼らが一番幸せそうな人たちなのか、を考えれば、その人たちを見習うやり方のほうが、より多くの人たちが幸福感を得られる道だと思う。

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出産退職年20万人、経済損失は1.2兆円 民間研究所試算

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018073090065813.html出産を機に仕事を辞める女性は年間二十万人に上り、名目国内総生産(GDP)ベースで約一・二兆円の経済損失になることが、第一生命経済研究所の試算で明らかになった。女性が仕事を続けられる環境の整備は、経済政策としても重要なことが裏打ちされた。 (奥野斐)

第一生命経済研究所の熊野英生(ひでお)首席エコノミストが、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査などを基に試算した。

調査などによると、第一子を出産した女性のうち出産に伴い仕事を辞めたのは33・9%。同様に第二子出産を機に辞めるのは9・1%、第三子出産時は11・0%。二〇一七年に生まれた約九十四万六千人について、第一子、第二子、第三子以上の内訳を過去の出生割合から推計し、それぞれに離職率を掛け合わせ、出産を機に離職する女性は二十万人と算出した。

この二十万人は正社員七万九千人、パートや派遣労働者など十一万六千人、自営業など五千人。それぞれの平均年間所得を掛け合わせると計六千三百六十億円。これが消費や納税などに回らなくなるため、経済損失となる。

一方、企業の生産活動による付加価値のうち人件費は約半分を占める。熊野さんは、女性退職による生産力低下などの企業の経済損失は退職した女性の人件費とほぼ同額とみなすことができるとして、損失総額を一兆一千七百四十一億円と試算した。

また、企業などの育休制度の充実が、離職を食い止めていることも出生動向基本調査などから明らかになった。

第一子出産後に育休制度を利用して仕事を続ける人の割合は二〇〇〇~〇四年は15・3%だったが、一〇~一四年では28・3%とほぼ倍増した。

熊野さんは「企業にとっても、せっかく育てた女性を出産退職で失うのは大きな損失。離職者を抑えることが今の日本の課題。保育施設の整備や育休制度の充実が重要だ」と話す。

◆非正規の離職率は7割超

「子育てに専念したいという人も一定数いるだろうが、職場環境や雇用条件によって辞めざるを得ない人が多い」。女性の働き方の問題に詳しい労働経済ジャーナリストの小林美希さんは「出産退職」の現状をこう指摘する。

特に厳しい立場に置かれているのが、パートや派遣など非正規雇用やフリーで働く女性たちだ。今回の試算では、育休制度を利用して仕事を続ける人の割合が増えていることも明らかになった。しかし、出生動向基本調査によると、二〇一〇~一四年に第一子を産んだ妻の離職率は、正社員が約三割なのに対し、パート・派遣は七割を超えた。

小林さんは「女性の約半数は非正規雇用だが、育休取得者は全体の3%だけ。働き続けたいすべての人が育休を取れるよう国が法整備すべきだ」と指摘する。

長時間労働の是正など、出産後の働きやすさも課題だ。保育政策に詳しい第一生命経済研究所の的場康子主席研究員は「時間や体力面の不安で働き続けることをためらうケースもある。企業側の環境整備によって出産退職を免れる人は増えるはずだ」と分析。「企業は、女性だけでなく男性も育休を取りやすい環境づくりをすべきだ」と話す。 (坂田奈央)

(東京新聞)